ヒト、モノ、カネといった有形の資産では制約があっても、中小の企業には大企業にはマネのしにくい強みを持つことができる。
その一つは、小回りの利く連携力だ。
あるとき、日工大MOT・中小企業イノベーションセンター長の小田先生は、
「知識と知恵の違いは何か」と問われた。
そしてこう言われた。
「三人寄れば文殊の知恵というではありませんか」
シュンペーターの「イノベーションとは資源の新たな結合」に通じるお言葉である。
VUCAの時代ともいわれる今こそ、「文殊の知恵」=「イノベーション」が中小企業にとって重要となる。
今回は日工大MOT修了生を通じてネットワークを形成した企業から、業種の異なる3社の社長をお招きし、新たな価値創造に向けての第1回鼎談をいただいた。
第1回鼎談
於)日本工業大学MOT 2022年6月29日
ご参加3社社長
大永 昊直 社長(株式会社ヘベナ)
鈴木 知 社長(株式会社現代文化研究所)
滝川 聡 社長(KJホールディングス株式会社)
※社長御名50音順
協力
日本工業大学専門職大学院
日工大MOT中小企業イノベーションセンター(SMEIC)
スタッフ
株式会社ヘベナ 孫 鵬(17期生)
株式会社現代文化研究所 中野 直哉(17期生)
KJホールディングス株式会社 田中 匡志(17期生) / 田口 大明
(社長さま御名50音順掲載に準ずる。敬称略)
小田 本日は宜しくお願いいたします。まず簡単にお互いに自己紹介から始めましょうか。
最初にKJホールディングスの滝川社長からお願いします。
滝川 当社は研磨事業を中心に半導体関連の製造業から生活関連サービス業含め、複数の事業を手掛けています。
多くの事業の柱を持つことで、ちょうどギリシャのパルテノン神殿の複数の柱が神殿を支えているように、「パルテノン経営」を推進しています。国内外でSDGsも意識した取組みを行っています。
そのようにして社会貢献型といった側面併せ、会社全体の価値の向上を目指しています。グループとしてはどんどん権限移譲を進めながら後進を育てています。
小田 次に現代文化研究所の鈴木社長、お願いいたします。
鈴木 小さな会社ですが半世紀超の歴史があります。事業としましては自動車分野を中心に調査研究を行っています。
小田 御社はトヨタ自動車の子会社と伺っていますが。
鈴木 移動、つまりモビリティについてはホットな話題が目白押しです。移動の困りごとから生活者のニーズをつかんだり、いま注目されているMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)分野での調査研究など、社会的に重要かつ市場機会のある分野を手がけています。
滝川 自動車業界にもシンクタンクがあるんですか?
鈴木 当社だけではありませんが、当社は例えば中国での新エネルギー関係の法規制動向からカーボンニュートラルの問題、技術動向のモニタリングといった自動車分野とそれが関連する多様な分野の調査研究に取り組んでいます。
小田 顧客は親会社からの受注が多いということでしょうか。
鈴木 かなりの部分を占めていますが、やはり変化はあります。自社で新たな顧客を開拓する必要もあります。そこで営業面で新たな取組み等、試行錯誤を進めています。しかし意識やノウハウ等、課題はありますね。高尚な夢を求めての経営は、足元の課題を乗り越えてから、となるかと。
小田 トヨタにとってどんな役割が求められているのか。これまでとこれからで何が違ってくるのか、といったことが考えられなければならないようですね。
それでは、ヘベナの大永社長、お願いいたします。
大永 私は1998年に中国・大連の大連理工大学を卒業して、留学生として来日しました。2002年に東京工業大学大学院を修了し日立ソリューションズという会社に就職したのですが、後に日立の国際営業部門に移り、中国市場でマーケティングに関わったのです。そのときに幅広い人脈を得たのですが、それを契機に独立しまして、2012年にヘベナを創設したのです。
小田 御社も非常に幅広い事業を手掛けていますね。
大永 滝川さんのところもある程度関連性ある事業展開ですが、当社も健康、自然、美といったテーマで一貫性をもたせています。また、当社も買収等でIoT関連分野に進出しています。一方でネコ用トイレといったペット産業にも取り組んでいます。
大永 一つ言いたいのは、日本製だからといって売れる時代ではなくなった、ということです。ものづくりにしても、日本の考え方は中国では通用しない。IoT等、情報通信技術を融合させる競争力においては、私は中国の方が技術的にもコスト的にも優位性があると考えています。同じ製品を作るにしても、中国の技術が進んでいるし、日本だとかなり高額になってしまいます。
小田 ネコトイレも競争力の観点で考えるということですね。
大永 それだけではないですが、中国社会はダイナミックに動いています。その動きやメカニズムを深く感じ取ること、そしてより付加価値を加えることができる製品を提供することが重要です。
小田 本日はまったく業種も業態も異なる3社の社長においでいただいたのですが、この変化の時代にさらに企業価値を高めるには、なかなか個々の企業だけでは難しい面もあるのではないですか。その意味では滝川さんのところで、吸収合併した企業の価値を高めるにはどうやっているのですか。
滝川 私はね、時代が「土の時代」から「風の時代」に変わった、と思っています。つまり「感性」が重要なのです。人的リソース、まあ社員ですが、モチベーションを高め潜在的能力を大きく発揮していただくには、強制ではなく内発的動機が大事です。当社では「この会社は楽しそうだ」というイメージを高める。会社のエントランスにしても会議室にしてもカフェにしても。それから私自身です。社長が楽しそうにしていないと。それが社員にも伝わりますよ。私なんか、レースにも参戦してますから。
鈴木 当社の場合は「影響力」という話をしています。社員それぞれの担う仕事が、どれだけ影響力の大きなものか、ということです。どれだけ自分の仕事が社会に貢献しているか、ですよ。ただ、それがなかなか目に見えるものではないことが難点ですが。 あと、在宅勤務含め、働き方を非常に柔軟にしています。
小田 私もそうでしたが、研究職のマネジメントというのは独特の苦労があるのではないですか。
鈴木 一般的には滝川さんの言う通りかもしれませんが、当社は社長の感性、というよりは、一人ひとりの研究職の強み、会社の強みで勝負していかないと話にならない部分もあります。
強みをはっきりさせて、商材を売り込んでいく。そのために、私は年度はじめに、我々の強みとして4つの領域でのサービスを売り込む、ということを会社方針の中に謳い、全社員に説明しています。
大永 人生には「賞味期限がある」と思っています。毎日がトレーニングですよ、自己磨きのトレーニングです。多くの人とネットワークやコミュニケーションを取るために、年間、二百日は飲み会に参加しています。
感性的にはやはり日本人と中国人では違いがありますね。私は中国で生まれ教育を受けました。日本の方々は、私を日本人と同じように扱ってくれる。それはそれでいいのですが、違いを先に認めていただきたい、というところもありますね。その上でみなが尊敬、尊重し合い、かつ楽観的に行く、という・・・。
ただ私は、正しいと思うことをやればいいと思う。
媚びると受け入れられないです。自分と仮説を信じて、素直に行動に移すことが重要です。
小田 最後に今後の3社連携も少し念頭に、戦略的なことをお話願えますか。
大永 滝川さんも言われていましたが、SDGsへの取組みは重要です。目の前の利益だけでなく、長期の観点ですね。
そして人的育成面に取り組む必要があります。理工系の国際的な人材も取り込んでいきたいですね。世の中の価値判断というのは、時代によって変わる点も押さえる必要があります。またグローバルな観点での国家の政策や国境を超えた価値判断も重要になります。
鈴木 まず受注案件にしっかり取り組まないといけません。そして社会の要求に応えていく。女性が更に活躍できるジェンダーフリーの時代に応える。SDGsについては、当社ももちろんですが、顧客の課題解決を通じて貢献していくことになります。
小田 シンクタンク、頭脳集団として中小製造業との連携は?
鈴木 ありえますが、ニーズをつかみきれていない。可能性はあります。
滝川 当社グループは約10社のうち半数は製造業です。グループ内異業種連携で企業価値は向上している。波及効果がある。
よい状況というのは未来永劫続くわけではないですから、事業承継含め、手を打っておく。
まあできれば状態のよいうちに、IPOでエグジットしたいですね(笑)。
大永 自分のことだけでは価値が大きくならない。人間にも賞味期限があります。
小田 本日はありがとうございました。
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